朝7時、春先とはいえミラノの朝は真っ暗。
さすがに真っ暗の朝にも慣れたが、このスイスに近い北イタリアの朝の寒さには毎朝うんざりする。
食費を1週間10ユーロでおさえるような貧乏学生の私にとって暖房代は大きな出費。この冬はよく朝を暖房なしで過ごしたと自分でも驚く。いつものように布団をかぶりながら朝ごはんを作る。まさに、かたつむり。
ミラノの郊外、住所はなんとかミラノという我が家。テレビはない。インターネットもない。朝ごはんは近所のメルカートで買ったボロいラジオを聴きながら…紅茶のCMで見るような輝かしいイタリアの生活はミラノではどこにもない。
朝8時。ようやく日の出。今日は休日。
たまった買い物リストを見ながら、中心街に行くか…とスケジュール決定。
クラブやバーが賑わう週末とは打って変わってミラノの休日の朝は誰もいない。
幹線道路沿いの道を歩きながら、はく息のの白さがいつも以上に目立つ。。
最寄の駅は地下鉄の終点駅。休日の朝のホームに純粋なイタリア人はほぼいない。
ヨーロッパの都会はどこもそうだが、郊外はある種、移民居住区。移民にはワケアリの人も多い。アフリカからボートでヨーロッパに渡った黒人の人や、最近ではアラブの人も多い、隣の駅はロマ(ジプシー)の地区。うちの大家は未だに私を中国人と思っている。
ミラノに住み始めたときは地下鉄の中が別世界のように思えたが、慣れてくると日本の電車と変わらない。そして乗っている人の顔も。どこか沈んだ顔が多いのは大都会のせいか…たまに地下鉄で見るロマたちの演奏が、そんな空気を明るくしているような気がする。
地下鉄に乗って20分。中心街の大聖堂広場に到着。
ミラノの象徴の大聖堂。多くの観光客が朝から集まる。何十回と大聖堂を見ている私には、そんな観光客を含めての”いつもの風景”。
中心街は嫌いだ。観光客だらけで人だらけ。しかし、大きな本屋&CD屋数軒とZARAとH&Mが集まっている中心街は買い物のマスト・スポットである。
イタリアの本屋のいいところは、大きなソファーが各フロアにおいてあるところ。のんびりと本を読みながら買い物をしているうちに、いつの間にかお昼。
外に出てみると人の流れがおかしい。これは以前にも経験がある。まさか…と青ざめた顔で地下鉄の入り口へ走ると、案の定入り口が閉まっている。
そう、スト。
イタリアでは月1回ペースでストライキがある。短いものなら数時間長ければ数日、街の交通が完全にストップする。あらかじめストライキの日時は公表されるが、テレビなし・新聞は毎朝駅のタダ新聞という私の耳には入ってこないときも多い。
いつ終わるかわからないストにはお手上げ。イタリアに住むと誰もが改めて考え直される。世の中は自分ではどうしようもできない力で動いている…と。
じたばたしても仕方ないので、近所のCD屋に視聴に行く。
こんなついてない日には、思いがけないことも起きる。人生とはそんなものである。
CD屋をブラブラしていると、後ろからクイっとズボンを引っ張られる。
振り返ると後ろに小さな男の子。東洋人。珍しい。
「お兄ちゃん、日本人?」
男の子の口から日本語が。私が「そうだよ」と答えると、男の子はにっこり。
男の子の後ろから母親らしき日本人が駆け寄ってきた。どうやらミラノに住んでいる親子らしい。聞くと父親の仕事の都合でミラノに住み始めたそう。
英語圏でもないイタリア・ミラノに住む日本人はちょっとワケありが多い。日本の専門学校を辞めてパリの専門学校へ移って勉強し、今はミラノで小さな服屋のデザイナーをしている人・高校を卒業してすぐにオペラ歌手を目指して1人ドイツに渡り、そこからミラノに渡って声楽の勉強する同い年の女の子・海外で生まれて一度も日本の地を踏んだことのない日本人の子・イタリアで修行する日本人コックなんて現地じゃ珍しくない。
そういえば、同じ学校にいる日本人も変わった経歴…
鹿児島の某私立校→東京の美大というおもしろい学歴の兄ちゃんと、高校まで海外で育って、日本の大学→日本の某大手広告代理店というすごい経歴のお姉ちゃん…
考えてみれば私の経歴も変と言えば変。
ミラノの日本人はそんなそれぞれの人生を生きている。そして、みんな異国のなれない環境で必死に生きている。
一期一会とはいえ、同じミラノでがんばって生きている親子に会えたのは、ストのおかげ。
日本人親子と少しカフェで時間をつぶしていると、どうやら地下鉄が再開のよう。よかった。
私の家の近くにはスーパーがない。幸い、帰る途中の駅にミラノ最大級のスーパーがある。コープ。
コープは好きだ。モール内には中華料理のテイクアウトもある。高いけど。
イタリアに住んでよかったと思うことは少ないが、そのうち1つが食べ物。野菜も肉もパスタも食材はおいしい。私が作ったパスタでもおいしい。イタリアに住むと誰もが一度は考える。「料理人になろうかな」と。それは単に素材のおかげ…
1つだけコープでいやなところがある。広すぎる。端から端まで1kmはある。いろいろモノを買うと足が言うことをきかなくなる。
そんなこんなで結局夕方。休日なのに対して何もしていない…それがイタリアだ。
晩御飯はいつものようにパスタ。テレビがないのでやっぱりラジオ。
ミラノというかイタリアは観光にはよいが普通の人は住めない国。電車は普通に半日遅れる・全部時間が違う街の時計・最悪に非効率なシステム・そして毎日必ず起きるトラブル…
そんな国でも住んでいるとわかることがある。住んでみると日本と変わらない。
確かに海外には日本とは言葉も文化も違う。でも、憧れや偏見や、そんなものをとっぱらって生活すればわかる。世界の距離は自分が思っている以上にずっと近い。
映画「ブエノスアイレス」のあのセリフもわかるような気がする。
“会いたいとさえ思えば、いつでもどこでも会える”
今日も一日終わり。寝る前にトイレに行く。
…日本ではありえないことが1つあった。
トイレが見事に大洪水。
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